移行計画の5つのポイント

移行計画の5つのポイント

■障害が発生しやすいタイミングとは

 2021年6月8日に米fastly(ファストリー)が世界的な大規模システム障害が発生し、
 ウェブサイトの閲覧不能や取引の一時停止に見舞われた企業や政府機関のサイトが数千件に上りました。
 世界の小売業に与えた損失は約1500億円超に上るとのことでした。
 また日本でも2020年10月初旬に東京証券取引所のシステムで大規模な障害あり取引が1日停止しました。
 東証の取引は兆単位なので損失としては計り知れないものとなりました。
 このように、システムに障害が起こると業務そのものが行えなくなってしまうという事態になりかねません。
 東証のシステム障害の原因は、「情報系、表示系のハードウェア」の問題ということで、システムの移行とは関係ありません。
 しかし、障害や問題が起こりやすいタイミングとしてシステムを移行してすぐのタイミングです。
 移行におけるリスクを小さくし、安全な移行を実現するためには、移行計画を立てることがとても大切になります。

■移行計画の5つのポイント

①移行要件

 移行要件とは、業務停止時間や切戻の必要性、移行対象データの精査、業務移行など移行に関する要件を定義します。

 業務移行の観点では、移行後の業務が業務フローや業務一覧などで定義され、
 新しい業務のマニュアルやトレーニングが適切に提供されるように移行計画に盛り込むことが必要です。
 システム移行の観点では、各種テストが適切に予定されて実行されることを計画に盛り込むべきです。
 データ移行においては、移行の対象となるデータと移行方法の決定が必要となります。
 また移行に失敗した時に切り戻しにかかる時間や必要性なども考慮すべき必要があります。

②移行体制

 移行体制とは、移行を実現するための人的な体制の事です。
 ここでも、業務・システム・データの観点が欠かせません。
 業務移行の体制については、移行後の業務を運営するための人材が整っているのか?
 システム移行については、本番稼働後の保守運用の体制は整っているのか?
 データ移行に関しては、データ移行を実行するために必要な人材は確保できているのか?
 完了後の確認作業を行う責任の有無などはっきりさせているか?
 といったことについて、移行体制の計画を立てる必要があります。

③移行スケジュール

 移行スケジュールに関しては、移行前後のスケジュールを明確にする必要があり、マイルストンを明らかにすることが重要です。
 ここでのマイルストンとは、「ユーザー受入テストの完了」、「移行判定」、「本番稼働」、「初期稼働の確認」といった項目になります。
 これらのマイルストンが明らかになれば、必要なタスクも自ずから明らかとなり、スケジュールを適切に作成することが可能になります。
 もちろん業務や停止時間に左右されますが、切り戻し作業が発生した場合なども考量し余裕をもって計画が望ましいです。
 

④リハーサル・移行判定

 そして、移行を実際に進めるために重要となるのが、リハーサルと移行判定です。
 リハーサルというのは、実施に移行手順に沿って移行業務を実際に行ってみることです。
 リハーサルを行うことで、移行手順に漏れがないことを確認できますし、クリティカルな問題がないかの確認を行うことが出来ます。
 また、移行を実際に行うかどうかの判断は移行判定を行うことよってなされます。
 移行判定は、移行判定基準に基づいてなされます。
 移行判定基準に含まれる項目は、リハーサルや各種テストの結果や移行体制が整っているかといった観点が含まれます。

⑤切り戻しプラン

 そして、移行計画に含むべきポイントとして重要なことが切り戻しプランを検討することです。
 緊急事態が起こった時の対応をあらかじめ定めておくということです。
 本番稼働前に、緊急事態が起こった場合には、本番稼働を中止もしくは延期すべきかを迅速に判断する必要があります。
 また、本番稼働後に緊急事態が起こった場合には、システムと業務を移行前の状態に切り戻すか否かの判断が必要になるかもしれません。

 以上の5つのポイントが移行計画を検討するときに重要となってくるポイントです。
 会社の状況や移行対象のシステムや業務の性質によって、重視するポイントは変わってきます。
 ですから、移行時、移行後の姿を想定しながら、ある意味で悲観的にリスクを洗い出すことが、安全な移行実現のためには重要となってきます。

参考資料

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN08FC50Y1A600C2000000/