JPCERT/CC(JPCERTコーディネーションセンター)は2026年10月8日、「直近で相次いでいる国内組織における不正アクセスに関する注意喚起」(JPCERT-AT-2026-0030)を公表し、2026年10月23日に更新した。2026年9月前後、国内組織で不正アクセスによる個人情報等の漏えい被害が相次いでいるという。被害は一般利用者向けアプリだけでなく、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールや従業員向け管理システムなど、本来不特定多数のアクセスを想定していない内部システムにも及んでいる。既知の脆弱性探索、APIの不正操作、Webシェル設置、AIを用いた攻撃基盤の悪用など複数の手口が確認されており、該当するシステムを運用するすべての組織が点検対象になる。

脆弱性の概要と影響を受ける製品
本注意喚起は単一の脆弱性ではなく、複数の攻撃パターン(ケースA〜E)を取り上げている。概要は次の通り。
| ケース | 攻撃手法 | 対象・備考 |
|---|---|---|
| A | 既知の脆弱性の探索・悪用試行、設定ファイルやバックアップファイルの窃取 | 標的ごとに異なるソフトウェアが対象。不審送信元IP:20.210.128.125(10月7日ごろ) |
| B | 管理用APIへの不正リクエスト(権限変更、不正アカウント作成、NoSQLインジェクションによるブラインド探索等) | スマホアプリ解析によるAPIエンドポイント・キーの特定や、窃取済みAPIキーの再利用を確認。Tor出口ノードやレジデンシャルプロキシ経由のアクセスもある |
| C | MetabaseのSQLインジェクションの脆弱性(CVE-2026-72898)の悪用 | 2026年8月14日付の別の注意喚起(AT260023)で詳細公表済み。不審送信元IP:213.163.202.171、221.216.140.49、221.216.140.129(8月上旬〜9月上旬) |
| D | 公開Webサーバーからアクセス可能なアプリケーションサーバーへのWebシェル(WARファイル/JSPファイル)設置 | 不審送信元IP:124.133.237.18(9月ごろ) |
| E | Cairn、CyberStrikeAI、ARTEXなどAIを用いたペネトレーションテスト基盤の悪用 | インターネットに公開されたWebアプリケーションやWSUSサーバーを標的とした探索・悪用試行を確認。複数の不審送信元IPが公表されている |
ケースBは2026年10月23日の更新で、新たな不審送信元IPアドレス(210.149.87.33、10月8日夜〜10月9日未明)が追加されている。観測されたUser-Agentには簡易なHTTPクライアントだけでなく、「公開されているアプリと同じUser-Agent」を用いるケースも含まれ、見た目だけでは正規アクセスと区別しにくい。
CVE-2026-72898の修正状況について
Metabaseの脆弱性(CVE-2026-72898)の影響を受けるバージョンや修正バージョンについては、本注意喚起自体には記載がない。詳細はベンダーのセキュリティアドバイザリ、またはJPCERT/CCが2026年8月14日に公表した専用の注意喚起(AT260023)を確認してほしい。
深刻度と悪用状況
本注意喚起は特定のCVEに対してCVSSスコアを示すものではなく、複数の攻撃類型を横断的に取り上げている。このため「スコアがいくつだから危険」という単純な判断はできないが、重視すべきは既に実害(個人情報等の大規模漏えい)が発生している点だ。JPCERT/CCは、普段から断続的に発生しているランサムウェア攻撃等とは別に、特に増加している恐れのある攻撃類型として本注意喚起を出している。
さらに参考情報として挙げられている株式会社サイバーセキュリティクラウドの報告では、AIエージェントによる攻撃とみられる事例で、約40分間に326のIPアドレスを使い分け、1,200件超のアクセスを繰り返したケースが紹介されている。IPアドレスやUser-Agentを次々に変えながら大量のアクセスを行う攻撃は、従来のIPブロックだけでは検知・防御が難しく、早急な多層的対策が求められる。
ケースEが示すAI悪用攻撃の特徴
2026年10月23日の更新で追加されたケースEは、CairnやCyberStrikeAI、ARTEXなどAIを用いたペネトレーションテスト基盤が悪用されている実態を示す。主な標的はインターネットに公開されたWebアプリケーションで、脆弱性の探索・悪用試行や設定ファイルの窃取などケースAと共通する手口に加え、インターネットに公開されたWSUSサーバーを標的とした攻撃試行も確認されている。
ベンダーはどんな修正を行ったか
本注意喚起は単一製品のベンダーが出したものではなく、JPCERT/CCが複数の被害事例を集約した警告であるため、「このバージョンで修正」という単一の記載はない。唯一具体的なCVEが示されているケースCのMetabaseについても、修正内容や修正バージョンの詳細は別の専用注意喚起(AT260023)に記載されているとされ、本ページでは重複して記載していない。該当製品を利用している場合は、必ずベンダーのセキュリティアドバイザリで修正バージョンを確認し、適用済みかどうかをチェックしてほしい。
そのほかのケース(A・B・D・E)は、ソフトウェアの脆弱性に限らず、機器の管理不備や設定ファイルの公開放置、内部APIの権限設計の甘さなど、「修正パッチ」では解決しない運用面の問題も多く含まれている点に注意が必要だ。
今すぐやるべき対策手順

JPCERT/CCが示す対策を、実施しやすい順に整理する。
- 手順1:対象システムの洗い出し 一般利用者向けサービスだけでなく、BIツールや従業員向け管理システムなど、普段インターネット公開を意識していないシステムも対象に含めて棚卸しする。
- 手順2:既知脆弱性のバージョン確認とアップデート 既知の脆弱性の影響を受けるバージョンで運用していないか確認し、修正済みバージョンが提供されている場合は速やかに適用する(特にMetabaseを利用している場合はCVE-2026-72898の該非を確認)。
- 手順3:APIのアクセス制御を見直す 単位時間あたりのリクエスト件数制限、ログイン・パスワードリセット等の高リスク機能への個別レート制限、非公開APIを含む全エンドポイントでの権限・HTTPメソッド制御を実施する。
- 手順4:APIトークンの管理を強化する 必要最小限の権限付与、適切な有効期限の設定、漏えいが疑われるトークンの即時無効化を行う。
- 手順5:不要な公開サービスの停止 業務上不要な管理機能やサービスがインターネットに公開されていないか確認し、不要であれば公開を停止する。地域限定サービスの場合はアクセス元地域の制限も検討する。
- 手順6:侵害有無の調査 本注意喚起で公開されている不審な送信元IPアドレス(20.210.128.125、213.163.202.171、124.133.237.18など)やUser-Agent、JA3/JA4フィンガープリントからのアクセス履歴をログから確認する。
- 手順7:検知・初動対応体制の見直し 不正アクセス検知体制と、検知時の初動対応手順を点検し、平時から顧客への二次被害防止(多要素認証の周知等)を準備する。
よくある質問
Q1. 自社は一般利用者向けサービスを持っていないので対象外か?
A. 対象外とは言えない。本注意喚起では、BIツールや従業員向け管理システムなど、不特定多数からのアクセスを想定していないシステムも被害に遭っているケースが報告されている。社内向けシステムも含めて点検が必要だ。
Q2. WAFを導入していれば十分か?
A. 十分とは言えない。JPCERT/CCはAPIへのレート制限、個別エンドポイントのアクセス制御、トークンの権限・有効期限管理など複数の対策を推奨しており、WAF単体ではなく複合的な対策が求められる。
まとめ
JPCERT/CCの注意喚起は、単一の脆弱性ではなく、既知脆弱性の探索、API経由の不正操作、Webシェル設置、AIを用いた攻撃基盤の悪用という複数の手口が同時期に増加していることを示している。特にMetabaseを利用している組織はCVE-2026-72898の該非確認と修正適用を急ぐべきだ。それ以外の組織も、公開しているAPIやシステムの棚卸し、アクセス制御・トークン管理の強化、そして本注意喚起に掲載された不審なIPアドレス・User-Agentからのアクセス有無の確認を、できるだけ早く実施してほしい。

